『救出のバーチャルスペース』

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 灯はなく、窓から射す月明かりのみが照らす学園の廊下を少女が1人、駆けていく。
 足は廊下を強く蹴り、腕は大きく振られ、その一歩が廊下を響かせて全体へと広がる。
 少女の肩は大きく上下し、息は荒くなっていく。
 しかし、それは肉体が悲鳴をあげているわけではない。
 ここには肉体的疲労は存在せず、あるのは精神的疲労のみなのだから。
 つまり、少女の心は疲労を感じてきている。
 時間経過が曖昧で、自身の肉体から切り離されたこの電子空間において。
 一体、どれだけの時間が経過したのかわからない。もう何時間も経ったようにも思えるし、実はまだ数分しか経っていないのかもしれないとも思える。
 少女は走った。この電子空間内に囚われている少女を助けるために。
「でも、どこにいるの?」
 時間が経つにつれ、心にある焦りが増えていく。それに比例するように体に疲労が蓄積されていくのを感じていき、また焦るという悪循環ができている。
 近くの教室の扉を開けては叫ぶ。
「どこ、どこにいるの!」
 しかし、教室内からの返事はなく、響いた声は消えていく。
 扉を閉めることなく、次の扉、次の扉を開けていっては叫んでいく。
 だけど、その囚われている少女の姿は見つからない。
「どうしよう、時間が、時間が!」
 今、どれだけの時間が経過しただろう。この世界に不慣れな少女は時間の感覚が曖昧でわからないでいた。そして、それが少女の焦りを助長させていく。
 ――もーいいかい?
「ひぃ!?」
 背後から突然聞こえた声に少女は驚き、短い悲鳴をあげる。
 少女は振り返らず、走り出した。その声から少しでも遠のくために。
「くぅ、見つかっちゃった。ちょっと、タンマ!」
 少女は自分の失態に悔い、さらに急ぐ。
 蹴る足は強く、規則正しい音を立てながら、腕を大きく振り、少女は逃げる。
 ――はい、捕まえた。僕たちの勝ちだぁ!
 ゲームオーバー。少女も囚われの身となった。


「……」
 翠川佳奈は机に左肘をつき、掌の上にアゴを乗せ、パソコンの画面を見つめていた。
 画面にはメールが開かれ、眼はそのメールに書かれている文章を追っている。
「これが……そうみたいね」
 1人、納得したように呟き、座っている椅子の背もたれに体を預けた。
「どうしよう、かな?」
 そのまま白い天井を見上げ、誰に言うでもなく呟く。メールに書かれた内容はオンラインゲーム『ハンシーク』への招待であった。
 ここ数日の間に友人2人が意識を失い、入院している。朝、起こしに行った親がパソコン前で倒れているのを発見し、病院へと運ばれ、検査を受けた。しかし、原因は不明。睡眠状態であるように思われ、病院で様子を見ることとなったのであった。
 だけど、その原因がこの『ハンシーク』ではないか、と佳奈は考えた。佳奈の趣味の1つにオンラインゲームがある。今回、意識を失った友人2人と一緒にとあるオンラインゲームを楽しんでいた。そこで聞いた噂に今回と似たケースがあった。
 ある日、メールでオンラインゲームの招待状が送られてくる。しかし、それはどう考えても怪しい感じがする。だから、削除するのが普通だ。だけど、送られてきた者は何かに引き寄せられるようにクリックしてしまう。そうすると、心だけがそのオンラインゲーム内に取り込まれる。気がついた時には電子空間内。そこでゲームオーバーを迎えると帰ってくることができないと言われている。
 そして、友人2人から意識を失う前にメールが来た。オンラインゲームの招待状が届いた、と。そして、それは今、佳奈のパソコン画面にも表示されている。
「確かに、引き寄せられるモノを感じる……。そして、クリックすれば、心だけが電子空間、つまり、ネットの中へと飛ばされる、か」
 それはあり得ない事ではなかった。世界大異変以降、この世界には『ギフト』という不思議な能力を持った者が生まれるようになった。その力は、それまでの常識を超えた力。その力を使えば今回のことだって可能なことだと考えつく。なぜならば、心だけを電子空間へと飛ばすという行為、それは佳奈が持つギフトの力でもあったからだ。
「だけど、なぁ……」
 そう。同系統の力でも、細かな分類もある。そして、力の差も。佳奈は自分が電子空間内に入ることはできても、他人を呼び込むことができない。そして、クリックを誘うような誘導力もない。それに相手が1人とは限らない。複数人が協力をしての複合能力によっての仕業かもしれない。それを相手に佳奈1人で太刀打ちできるとは考えられない。だから、ここは引くべきなのだろうと、佳奈は思った。
 しかし、佳奈はクリックをした。その『ハンシーク』へと繋がる扉を。
 結局、頭では分かっていても、体はそれを否定していた。目の前に友を助けるための道があるのに引き下がるわけにはいかない。


 暗転。眼を開けると、暗い、でも、月の灯が射しこむ廊下に立っていた。
 体の感じから、肉体を切り離してここに立っていることがわかる。
 そして、もう1つ。ここが佳奈の通う王都学園の廊下であることも。
「たぶん、そう。初等部のエリアだ。でも、なんで? 向こうは王都学園の関係者?」
 相当凝られて作られているのがわかった。しゃがんだり回ったりしても、視界にブレを感じない。跳んでも走ってもブレを感じない。そして、窓から射す月明かりで出来る影も特に違和感がない。そう、とても自然。
「まあ、でも。感心している場合じゃない。2人を探し出さないと」
 頭のイメージを眼前に展開。このゲームのマップを引き寄せた。現在地はここか、と確認。やはり、地図で見ても王都学園初等部のエリアで間違いはなさそうだった。
「でも、関係はない。これはあくまでもゲームなんだから。それよりもどこだろう? 何かヒントになるものでもないかな?」
 うーん、と首を傾げてマップとにらめっこ。特におかしそうな場所が見当たらない。
 ない頭を捻っても、それは変わらず、うーん、と唸ってしまう。
「ねえ、お姉ちゃんどうしたの?」
「どうしたの?」
 そんな佳奈の背後から突然、声がかかる。振り向くと、そこには初等部の制服を着た男の子と女の子が立っていた。
「……いつの間に?」
 軽くバックステップ。2人と距離をとり、警戒態勢。だけど、2人はにこにこ笑っている。そして、そのまま、飛び掛ってきた。
「ねえねえ、お姉ちゃん、一緒にあそぼ!」
「あそぼ!」
 2人は佳奈へと手を伸ばす。しかし、素早い動作でのバックステップ。二人の手は空を掴む。と、同時に佳奈は手を銃の形に構え、撃つ。指先から放たれた弾丸が2人の少年少女を襲い、あっさりと消滅させた。自身が持つ対ウイルス、バグ用の能力で。
「ふう。すぐに襲われたら危なかった」
 ない汗を拭いてみせて誰ともなしに余裕をアピール。普通の人だったら、気がつかないかもしれない。今の2人がバグであることに。ここは王都学園を舞台にしている。だから、登場する人物も王都学園の学生であるのだろう。そんなことを考えても、意味があるようには思えなかった。だから、佳奈は先を急ぐことにした。
「待っていてね、2人とも!」


「もう、なんて数なのよ!」
 言葉と共に三連射。三体のバグが姿を消す。
 先に進んだ佳奈を待っていたのは何体いるかもわからないほどのバグの数。
「あそぼーよー」
「あそんでー」
 佳奈を見つけたバグの少年少女たちは嬉しそうに近づいてくる。だけど、捕まるわけにはいかない。ミイラ取りがミイラになってたまるものか、と連射は続く。
「ああっ、でも、なんだろう。罪悪感が……」
 バグとはいえ、見かけは初等部の生徒。しかも、愛くるしい少年少女の姿。それを撃ち抜いていくのはなんだか気が引けていた。でも、そんな場合ではない。
「そう、そんな場合じゃないわよね!」
 気合を入れ直し、襲い掛かってくるバグたちに連射撃。佳奈の攻撃でバグたちは簡単に消えていく。
「なのに、なんでいなくならないのよ!」
 質より量で襲いかかってくるバグたちは一向に減っていくように見えない。それが佳奈の疲労を一層高めていった。だからだろう、つい愚痴を言ってしまうのは。
「!?」
 後ろに気配を感じ、ここが廊下の端であることに気がつく。最初は押していたが、迫りくる大量のバグたちの圧迫感、それが佳奈を知らぬうちに壁際へと押しやっていた。
「絶体絶命、ねっ!」
 口では窮地であることを発したが、瞳に、行動に、諦めはなかった。眼前の脅威に向かい、勇気を形にし、撃ち続ける。意識の戻らぬ友を助けるために。


 1体、2体、3体。勢いに乗り、消していく。
 しかし、それも限界。
 押す力は押し返す力を超え、佳奈の構えた手をバグの少年が握った。
「しまっ――」
「その時だ! 正義を身に宿すヒーローが現れたのは!」
 手を握った少年は掻き消え、佳奈の周囲にいたバグたちも一瞬にして姿を消す。何が起こったのか理解が追いつかない佳奈の眼前。そいつは高らかに声を発した。
「純真無垢な白タイツ! 情熱の赤マフラー! ミラージュ仮面、美少女ピンチにただいま爆参!」
 その時、世界が凍った。
 全身ピチピチの白タイツ、首には赤いマフラーをした小太りな男は登場してからポーズをとり続けている。きっと佳奈の反応を待っているのだろう。
 それを目にした佳奈はフリーズした頭を再起動。眼前でポーズをとったまま、佳奈の反応を待っているこの男が廊下にいた無限とも思えるバグの少年少女たちを消してくれたのはわかった。しかし、なぜそんな危ない格好をしているのかがわからない。そんな2人は互いを見つめ合う。
 うん、変態さんだ。
 佳奈が抱いた第一印象はそんなものだった。
「あの、助かりました。ありがとうございます」
 だがたとえ、変態とはいえ、助けてくれたのには違いない。佳奈は感謝と共に一礼。
「気にするな、ツインテールの美少女よ! オレ様は自分の正義に従って行動したまでのこと。だが、その感謝、しかと胸に刻みこまさせてもらった! この胸に刻まれた多くの感謝がオレ様の力となる! これでまた1つ、オレ様は強くなっただろう! そして、それは強き悪を挫く原動力としてこれから共に戦ってくれるはずだ!」
 やはり、おかしな人だな、と。それを聞いていて笑ってしまった。
「うむ、笑顔もやはり素敵だぞ。ツインテールの美少女、翠川佳奈よ!」
「……えっ、なんで私の名前を?」
「それはオレ様が正義の味方だからだ!」
 高らかに言い切るミラージュ仮面。だけど、全然答えになっていなかった。それとさっきから1つ気になっていることがあった。この人を知っているような気がする。
「……あの、どこかであったこと、あります?」
 しかし、ミラージュ仮面は首を横に振った。
「オレ様は佳奈くんとは初対面だぞ」
「……そう、ですか?」
 どうもその答えに納得できない佳奈。だが、ミラージュ仮面がその考えをとめた。
「さあ、佳奈くん。今、帰る扉を開けよう。君はそこから帰るのだ」
「えっ、いや、それはできません! 友達が、友達が2人、この世界にいるんです! その2人を助けるまでは帰れません!」
 ミラージュ仮面の言葉を拒否。自身が来た目的を告げ、帰ることを拒んだ。
「よし、わかった。じゃあ、一緒に来てもらおう」
「えっ?」
 あっさりと同意がとれ、むしろ、佳奈は驚いた。
「なんだ、そんな顔をして? 君はあれだな、感情がすぐ顔に出る。最初、オレ様を見た時も『変態さんだ』といった感じに思っていただろう。君は百面相だな、とても面白いぞ」
 そう言って、自分が変態扱いされているにも関わらず、ミラージュ仮面は笑った。
 そんなミラージュ仮面を見て、佳奈もなんだかおかしくって笑みがこぼれる。
「オレ様が同意したのは佳奈くんが友を真剣に心配し、助けたいという気持ちが全面に出ていたからだ。その気持ちはとても素敵なものだ。大切にするのだぞ!」
「はい!」
 佳奈は思った。この人は良い変態さんだな、と。
「ただ、今回は特別だということをわかってくれ。佳奈くんがギフトを使えるのは知っている。だから、最低限の身の危険は守れると判断したからの同行許可だ。しかし、まだまだ力不足。今回も助けたいという気持ちが先行しての行動だということがわかる。いいか、無茶と勇気を履き違えてはいけない。それで困るのは自分だけだとは思うな」
「……はい」
 佳奈は反省した。まさにその通りだった。自分にはギフトがある。最低でも自分の身は守れるだろうと思っていた。でも、結果はミラージュ仮面がいなければ、自分も友達と同じ結果になっていたに違いない。反省しないと。
 だけど、この気持ちは大切にしないと。ミラージュ仮面の言葉を聞いて、佳奈は強くそう思った。だけど、なんだかその言葉には、ミラージュ仮面が自身にも再確認している言葉のようにも思えた。ミラージュ仮面にもそんなことがあったのかな、と思いながらその仮面に隠れた眼を見つめた。
「なんだ? オレ様に恋をしてしまったのか?」
「うわっ、最悪だ」
 そう言って佳奈は笑い、ミラージュ仮面も笑った。


「さて、では一気にラスボスのところへ行くとしよう」
「えっ? 場所がわかっているんですか? 地図には何もそれらしい場所はないのに」
 ミラージュ仮面の一言に佳奈は驚く。地図を何度も確認して進んでいたが、それらしい場所は見つからず、頭を捻っても何も出てこなかったというのに。
「佳奈くん、ひとつ質問だ。地図はなぜ存在する?」
「? ええと、道に迷わないため、ですか?」
「それも間違いではない。でも、答えはこうだ」
 パチン。
 ミラージュ仮面が指を鳴らすと、世界は崩れた。
 広がるのは白の世界。そこにミラージュ仮面と佳奈は立っていた。
「正解は現地が存在するからだ。ほら、あそこを見てみたまえ」
 指が示す先。その場所に大きな十字架が2つ。
「あっ……男の子と女の子?」
 そこに磔にされていたのは佳奈がこのゲームの世界に入って最初に襲いかかってきた少年と少女だった。
「そもそもこのゲームは王都学園に通う初等部の子供たちが作ったものだ。登場人物の姿はこのゲームで遊ぶ予定だった子供たちの姿で作られた。中心となっていたのはあの2人だ。あの2人も君と同系統のギフトを持っている。しかし、まだ慣れぬギフトの力を使いすぎ、制御に失敗。そのために起きた暴走なのだ。さあ、君の友人たちを助けに行くぞ!」
「はい!」
 2人は何もない白い世界を駆け抜けた。
『ジャマ、しないで』
『ジャマ、しないで』
 接近する邪魔な存在、ミラージュ仮面と佳奈にギフトが襲い掛かる。バグやウイルスで作った槍や斧、剣やらが弾丸となって飛ばされてくる。
 それを佳奈は手を銃の形にして撃ち消し、ミラージュ仮面は避けて突っ込む。
「いいか、佳奈くん! 彼ら2人には手を出してはいけない! 破壊するのは後ろの十字架、それで今回の暴走は収まり、君の友人はリアルへと戻っていく。いいか、もう1度言う、少年少女には手を出してはいけない。破壊するのは後ろの十字架のみだ!」
「はい!」
 そう答えると、佳奈は銃の形を肩にミサイルランチャーを担ぐような構えに変え、撃ち放った。飛び出したミサイルは高速で飛び、少女の十字架へと向かう。
 が。
「えっ!?」
 巨大な盾が出現し、相殺される。そして、消えた盾の後ろから弾丸となった武器類が襲いかかってきた。驚きながらも佳奈はそれを避けていく。
「……やはり、この世界では彼らのほうが上のようだな」
 横を見るとミラージュ仮面が立っていた。どうやらミラージュ仮面も攻めきれていないようだ。
「どうするんです、ミラージュ仮面? ミラージュ仮面よりギフトの力が上のようだけど。もちろん、私よりも」
「事前の調査で予想はついていた。ここが彼らの優位な世界だというのならば、その内側にこちらが優位の世界を作るまでのこと!」
「えっ、どういうことですか?」
 佳奈の疑問にミラージュ仮面は行動で示した。
 右手を天にかざし、高らかに言葉を発した。
「ミラァァァァァジュワァァァァァルド!」
 ミラージュ仮面の叫び声と共に世界は灰色の世界と化した。
「ここはオレ様がギフトで作り上げた閉鎖空間。先ほどまでいた世界と切り離した別世界だ。そして、オレ様の力が何倍にも跳ね上がる空間でもあるのだ!」
「ミラージュ仮面ってダブルギフトだったの!?」
 ギフトは1人に1つと決まってはいない。複数のギフトを手にしている人もいる。今、目の前でそれを見せているミラージュ仮面のように。
「見せてやろう、オレ様の力を! 召還! 魔法少女アリス!」
「わぁ、アリスちゃんだ! これって具現化能力!?」
 佳奈の眼前には現在JHKで放送中の人気アニメ「魔法少女アリス」の主人公の少女アリスが具現化されている。
「そうだ。この空間内ではオレ様は具現化能力が使える! さあ、見せてやれ、アリスちゃん! 君の力を!」
「はい!」
「うわぁ、声まで同じだ! 可愛い!」
 元気に、そして、真剣に返事をするアリスの可愛さに佳奈の顔が緩む。それを気にせず、アリスは魔法を詠唱。アリスの足元に魔法陣が展開する。
「いっけぇ!」
 その声と共に集束型砲撃魔法が2つの十字架を砕く。
 と、同時にミラージュワールドは消え去り、ミラージュ仮面はよろめいて膝をつく。
「大丈夫、ミラージュ仮面!?」
 ミラージュ仮面は近寄る佳奈を手で制し、立ち上がる。
「何、少し力を使いすぎただけだ。それより、君はこの世界を出るのだ。ギフトの暴走は止まった。この世界はもうすぐ崩れる。友達の心もすでに解放されて戻っているだろう」
 2人の側に大きな扉が現れ、その扉がゆっくりと開いていく。
「それと、あの2人の少年少女はオレ様のもとで暴走しないように制御できるよう、教育する。だからというわけではないが、彼らのことを許してほしい。君らの友人にも2人がきちんと謝罪するように連れて行く。それで許してもらえるかはわからないが、気持ちだけはきちんと表したい」
 ミラージュ仮面は自分のことのように佳奈へと告げる。それを聞いて、やっぱり良い変態さんだな、と佳奈は思った。
「大丈夫です。何せ私の友達ですから。笑って許してくれますよ」
 そう笑顔で答えた。
「そう、か。ありがとう、佳奈くん!」
 仮面で顔は見えない。でも、ミラージュ仮面の顔がとてもいい笑顔に見えた。
「それでは、さらばだ!」
 そう言って、ミラージュ仮面は姿を消した。
「……ありがとう、ミラージュ仮面」


 こうして、今回の騒動は終わった。
 後日。目が覚めた友人2人は念のための検査を受け、その翌日に退院した。佳奈が眠っていた時のことを尋ねると、可愛い小学生たちと遊んでいたそうだ。囚われの身となっている子が学園内にいて、探し役の友人2人が見つける。でも、ある一定時間を越えると、鬼役の少年達が探し役を捕まえに出てくるといったゲームだそうだ。夜の学校ということもあり、突然やってくる小学生たちは結構怖かった、と笑っていた。また、学園は公欠扱いになっており、入院費などもすでに支払われていた。ミラージュ仮面の名前で。そして、謝罪に来た2人の一生懸命に謝る姿に佳奈の友人2人は許した。と言っても2人は被害にあったと感じておらず、楽しかったので許すも何もないと笑っていた。そして、その謝っている小動物のような小学生2人の姿があまりにも可愛いので頭を撫でたり、抱きしめたりした、とさ。
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