『妖精さんになりたい彼とその話に付き合う僕』
「第43回俺が妖精さんになるためにはどうすればいいのかいぎ〜」
中学1年の冬。
暖房機の前に陣取り温まっていた休み時間。
一緒にいた友達がいつものように突然会議を始めた。
「第43回って、この話をするのは初めてだろ?」
「俺の脳内ではすでに何度もやっているからこれが43回目あたりなんだよ。とにかく俺は妖精さんになりたいんだ」
「そうですか。なれるといいですね。応援しますよ」
笑顔で答える僕に不服そうな顔で友達は言う。
「なんで敬語なんだよ。おまえ友達だろ? もっと真剣に考えてくれよ」
とても真剣な顔の友達。
とても真剣に退屈しのぎをしようとしている顔。
いつものことながら突然の思いつきだな。
「でだ。どうしたら、妖精さんになれると思う?」
「そうだな。妖精さんのコス」
「却下」
即答だな、おい。
「コスプレで妖精さんになれたら、コスプレイヤーさん達は最強だぞ」
どういう風に最強なんだ? 最強の基準がわからない。
「じゃあ、強い思い込みを」
「却下。それではただの危ない人だ。そういうのが犯罪に走るんだ」
そういう人だけとは限らないのに。
「たしか、一生清らかな体のままだとなれるとか」
「清らかな体?」
「つまり、その、女の子と、その、あれだ、あれをしないってことだ」
考えただけで恥ずかしいのに、言うのはもっと恥ずかしいよ。
「なるほど、あれか」
どうやら、僕の考えが伝わったようだ。
「なら、俺は妖精さんにならなくていい! むしろ、なってたまるか! 以上で会議終了!」
その終了宣言と共に休み時間終了のチャイムが鳴った。
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