『雑学講座をしようとした彼とその話に付き合う僕』

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「第54回俺の雑学講座〜。えっ、だから俺の脳内ではすでに何度も行われていんだよ」
「まだ聞いてないのに自分で説明すんなよ」
 中学1年の冬。
 休み時間に突入。
 同時に前席の友達がこちらに向き直り、突然講座を開始した。
 まあ、突然なのはいつものことだけど。
「まあ、聞けって。えー、コホン。さて、なぜ秋の空は高く感じるんだろうね? 君は知っているかな?」
 教育テレビのお兄さんみたいな口調での問いかけはやめてくれ。
「今、もう冬だぞ。それに、僕は」
「ウッセ、バカ。黙れ、おまえは。関係ないだろ、そんなの。俺はこれを昨日知ったんだよ。それをお前に教えてやるってんだから、むしろ感謝しろ」
 感謝なんて絶対するもんか。
 しかも、僕はまだ話している途中だったのに言葉をかぶせるなよ。
 それに、なぜ昨日秋の空について知る機会があったんだろうな。
 もう冬なのに。
 まあ、そういうのは関係ないか。
 物事を知るのには。
「まあ、あれだ。人ってもんはだな、新しく手にしたモノを試したくなるんだよ。おまえだってそうだろ?」
 うん、まあな。
「ゲームやっていて新しく覚えた技とかすぐ使いたくなるだろ?」
 そうだな。
「日本刀を手に入れたら、試しに人を斬ってみたくなるだろ?」
 うん。っていや、それはだめだろう。
 銃刀法違反の上に、人殺しで重罪だぞ、おい。
「まあ、つまりはそういうことだ」
 最後のはともかく、まあ、そんなものだろうな。
「で、お前はなぜ秋の空が高く感じるか知っているか?」
「確か、空は空気中の不純物が少ないほど高く見えるんだよね。だから、空気が澄んでる秋は空気中の不純物が少なくて高く見えるんだよ」
 そう答えた僕を彼は「うわ、マジかよ、こいつ」みたいな目で見てきた。
 なんだよ、その目は。
「知っていたんだな、お前。なら、そうだと言えよ」
「さっき言おうとしたら、お前が僕の言葉にかぶせてきたんだろ」
「おまえ、あれだな。大人からしてみれば知っていて当然だろみたいなことをまさに自分が発見したんだよ的にキラキラした目でいう子供を見る大人の目で俺を見ていたんだな」
 なんだよ、それは。
 どんな目だよ。
「くそ、覚えていろよ! 次は負けないからな!」
 そんなヒーローモノでヤラレ役が言うような台詞を残し、彼は教室を出て行った。
「もうすぐ、チャイムなるぞ、おい」
 そして、休み時間終了のチャイムと同時に彼は何事もなかったように教室へ戻ってきて席についた。
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