『手作り弁当を想う彼とその話に付き合う僕』

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「手作り弁当が食べたい」
 彼の口から無意識にもれたようにその言葉が聞こえてきた。
「手作り弁当が食べたい」
 あっ、また言った。
 中学1年の冬。
 今は給食の最中。
 机を向き合わせた眼前の友達が一口食べるごとに同じ言葉を繰り返す。
「そんなに手作り弁当が食べたいのか?」
 僕のその言葉を聞き、彼は僕の顔を見て言った。
「おまえ、もしかしてエスパーか?」
 彼の顔には驚きの表情が装着されていた。
 は? 彼は何を言っているんだ?
「よく俺の考えがわかったな。知らなかったぞ、おまえがエスパーだなんて」
「何言っているんだよ。お前が自分で言っていたんだろうが。気づかなかったのか?」
 まあ、気がつかなかったんだろうな。
 驚いているし。
「で、そんなに手作り弁当が食べたいのか?」
「食べたい! 彼女に手作り弁当を作ってもらいたい!」
 彼は叫んだ。
 周囲の視線が一同に集まったけど、ああっまたいつものことか、と思ったみんなは何事もなかったかのように自分たちの話に戻っていった。
「で、なんでまた突然そう思ったんだ?」
「色々あってそう思った」
 その色々を聞きたかったんだが、彼はそれを気にせず話を続けた。
「ああっ、手作り弁当が食べたい! 乙女の想いがクリスマスにバレンタインで第二ボタンをあげたくなるような手作り弁当が食べたい!」
 どんな手作り弁当だよ、それは。
「語りかけてくるんだよ、お弁当が! その中にある一品一品に彼女の想いが詰まっているんだよ! その想いが俺に語りかけてくるんだよ!」
 そう言いながら彼は給食を勢いよく食べだした。
 きっと今、彼には給食がその乙女の想いがクリスマスにバレンタインで第二ボタンをあげたくなるような手作り弁当に思えているんだろう。
「うまい、うまいぞ! ああっ、最高だよ! 彼女の手作り弁当は最高だよ!」
 そんな彼に僕は一言。
「……虚しくないか?」
 彼の手が止まった。
 そして、震えだした。
「虚しい。あまりにも虚しい」
「……彼女、できるといいな」
「ああっ、できるといいな……」
 それから彼と僕は給食を黙々と食べた。
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