『場面転換だと言う彼とその話に付き合う僕』
「はっ、はっくっしょーい、だーちくしょう」
彼は鼻をむずむずさせた後、豪快なくしゃみをした。
ただ、くしゃみの後にちくしょうって、なんかおじさんくさいぞ。
中学1年の冬のこと。
短い休み時間をどう有効に使おうかと話しているうちにもうすぐ休み時間が終わる。
正に本末転倒だな。
「風邪か?」
くしゃみがおじさんくさいと思いながらも、一応心配をしてみたりもする。
「……ちがうな。これは場面転換だ」
鼻をすすりながら彼はにやりと笑みを浮かべる。
なんだ、場面転換って?
「今のくしゃみは他のところで展開していたストーリーからバトンが渡されて俺たちのストーリーへ場面転換されたんだ。まあ、よくある手法さ」
そんなことを偉そうに言うが、ストーリーってなんだよ。
それに手法って。
「まぁ、誰からのバトンかはわかるがな」
彼はだらしなく頬を緩めまくっている。
そんなだらしない顔をした彼を見てもう予想はついた。
「きっと隣りのクラスのあの子だな」
うん、やっぱりね。
「俺に淡い恋心を抱いているあの子に違いない!」
高らかなに言い切る彼。
でも、それはないな。
なぜなら、あの子が彼を想っているのではなく、彼が一方的にあの子を想っているだけだし。
「きっと、あの子は友達と今俺が何をしているのかなとか思っていて、それで場面が俺にふられたんだ。つまり俺が今、主人公だ!」
なぜか虚空を見ながら主人公宣言する彼。
訳が分からないよ。
彼曰く、彼を映している画面があるらしい。
「はっ、はっくっしょーい、だーちくしょう」
「何、また場面転換か?」
僕は少々あきれながら聞いた。
「……いや、なんか体がだるい気がする」
「……風邪だな」
そこでチャイムが鳴った。
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