『バナナで転ぶのかと話す彼とその話に付き合う僕』

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「なあ、おまえはバナナの皮で滑って転んだことがあるか?」
 中学1年の冬。
 無人島から無事に生還し、新学期を向かえた彼と僕。
 今は給食の時間。
 彼の手には食べ終えたバナナの皮があった。
「ないよ」
 彼の手にあるバナナの皮から彼の顔へと視線を移した。
「俺もない。よくよく考えてみるとバナナの皮で滑って転ぶとは考えられないよな」
 彼はバナナを置き、腕を組んで椅子に深く座り直した。
「まあ、見たことないからな」
「俺もだ。しかし、漫画とかではよくそんな表現がされている。それはなぜだ?」
 彼は僕に顔を近づけて訊ねる。
 というか、顔を近づけすぎだよ。
「さあ、なぜだろうな?」
 僕は彼の顔を手で遠ざけながら、首を傾げた。
「人はバナナの皮で滑って転ぶのか? 試してみる必要があるな」


 昼休み。
 教室前の廊下にはバナナの皮が無造作に置かれていた。
「はい。ということで、実験スタートです」
「ねえ、やるなら自分でやりなよ。人様に迷惑をかけてまでやることじゃないだろ?」
 僕が廊下にあるバナナの皮を拾いに行こうとすると、腕を掴まれ、彼に止められた。
「自分でやるとだな、どうしてもどこかで意識してしまう。それを除外するには知らない人間に試すべきなのだよ。……それに転ぶの嫌だし」
 結局自分が転ぶの嫌なだけなんだな。
「ほら、いいから見てなって」
 そのとき、廊下で誰かの声と大きな音がした。
 振り返ると廊下では尻餅をついていた先生が腰をさすっていた。
「ああっ、見逃したよ。おまえが邪魔するからだぞ」
 彼は残念そうな顔を僕に向ける。
 そんな場合じゃないだろ、おい。
 結局、僕と彼は先生に説教を受けることになった。
 巻き添えもいいところだよ、まったく。
 先生の説教は昼休みが終わるまで続いた。
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