「続・魔法少女はじめました。」
前回のあらすじを言うと、オレが美少女だということが判明した。
まあ、そんなところだ。
さて、魔法少女ヒカルという小学3年生相当の美少女の正体が誰なのかバレても構わないと思っていたオレだが、当人はそうでもないらしい。
たった今、変身解除したところを友人であるコタローに見られて硬直しているからな。
まあ、同じく見ていたコタローも対処に苦しんでいるようだが。
「あのさ、ヒ――」
「きえええ!」
硬直解除。
コタローの言葉を奇声で遮りながら、目に涙を浮かべたヒカルは手刀を高らかに振りかぶり、「正体を知ったからには生きて帰すまい!」と、言ったセリフが似合う勢いある突撃をみせた。
その突撃は先程の魔物を倒した時以上だ。
余程恥ずかしいようだな。
だが、そんな照れたオマエが好きだぞ。
「きえええっ!」
しかし、そんなオレの告白も届いていないようだ。
ヒカルは抹殺対象のコタローへ殺意を込めた手刀を打ち下ろした。
「きえ?」
が、その手刀は見事に流される。
突撃の勢いを利用され、技をかけられたヒカルの体は宙を舞い、背中から落ちた。
受け身を取れずにいたヒカルは、これでもかというぐらい声にならない声をあげている。
悶絶寸前だな、これは。
「ごめん、ヒカル!」
慌ててヒカルに駆け寄る姿をみると、どうやら反射的に技をかけたようだ。
しかし、なんとも鮮やかな技の流れだろう。
かけられた当人はなぜ全身に痛みが走っているか分かっていないようだしな。
沈黙。
それが現状を表すちょうどよい言葉だ。
二人は初めてのデートで互いにどうしたらいいか分からず、ただただ頬を染めて見つめ合うという誰もが一度は通る通過儀礼を現在進行形で行っている最中だ。
「違うって! って、今のはコタローに言ったんじゃなくって……ああ、なんて説明すればいいんだ!」
どうしたものかと、頭を掻きながら一考するヒカル。
そして――
「いっけぇぇぇ!」
――フェンス向こう目指して走り出した。
と、待て。
オレは走り出したヒカルの首根っこを掴み、反動でヒカルは「うぐっ!?」と短い悲鳴を吐き、転倒した。
なんて見事なころびっぷりだろうか。
なんだ、音速を超える走りを見せれば、時を越えられるとでも思ったのか?
現実逃避をしたいのは分ったが、そんな能力を与えていないぞ。
「……使えねぇ。ふぐっ!?」
すまない。オレの足が粗相したようだ。
「何が粗相だ!」
「まあ、落ち着きなよ。ヒカル」
「ああ、違うんだ! 奇行に見えるかもしれないけど、これはなんて言えばいいんだ? その、なんだ……」
そこでヒカルは言葉に詰まった。
自分の置かれている現状をどう伝えればいいのか言葉が出てこないのだ。
だが――
「分かってるよ。その子と話しているんだよね」
――コタローは、そんなヒカルに救いの手を伸ばした。
「……は?」
コタローの言葉が理解出来ていないようだな。
そう。コタローにはオレが視えている。
こいつの眼は特別だからな。いや、眼だけではないか。
「そうなの? えっ、本当? なんだよ、コタロー。それならすぐに言ってくれればいいのに」
言おうとしたのを自ら遮っていただろうが。
「なら話が早い」
オレの言葉などどこ吹く風。
ヒカルは今までの出来事をコタローに話した。
その話はオレが以前話したことに重複する部分もあるので省略する。
決して面倒だからとかじゃないことを言っておこう。
ただ重複していない部分で大切なこともあるがいずれ分かるかもしれないので、その時の楽しみにとっておいてくれ。
「――と、いうわっ!?」
ヒカルの言葉は途切れた。
不意を突くように複数の魔物が2人の背後から襲いかかったのだ。
「1体じゃなかったのか!?」
負の感情をなめてはいけない。
なかなか厄介なものなのだよ、負の感情とは。
「うわっ、ちょっ、待てよ!」
ふむ、聞く余裕がないようだな。
よし、ならば聞けるように変態だ。
「変態言うな!」
それからヒカルは魔法少女になるための過程――どういった過程かは想像に任せる――を恥ずかしそうにこなしていった。
コタローが見ている前でな。
「見てたの!?」
ちらっとな。
さすがに友のそんな姿を見たくはないだろう。
オレは面白いと思うが。
「おまえはな! おまえはな! それよりコタローを――」
続く言葉は飲み込まれた。
助けに向かおうとした相手にその必要がなく、また倒す敵もすでにいない。
そこにいるのはこちらの視線に苦笑いするコタローただ1人。
もちろん、苦笑いの理由は友の痴態。
「痴態言うな! 早く戻せって!」
しかし、戻すわけにはいかなかった。
「まさか、まだ魔物が!?」
個人的にヒカルの恥ずかしがる姿を見れなくなるからだ。
「ふざけんな!」
しかし、本当ならコタローを助けるはずがこうも強くてはな。
「話を変える、な、よろ?」
どうやら負荷をかけすぎたようだな。
まあ、慣れぬ変態を時置かずして行ったんだ。
当然と言えよう。
「っと、大丈夫?」
コタローは、ふらつき倒れそうなヒカルの肩を抱いて心配そうに覗き込む。
「……コタローくん?」
そんな時だ。
屋上の出入り口に桜木あかねが現れたのは。
彼女は目前の光景を見て、しばし思考を巡らせてから、ある答えに辿り着いて愕然とした。
「そう、だったんだね。だから、私を受け入れようとは……」
「えっ、何? 何か誤解してない、あかねちゃん」
コタローは分かっていないようなので説明しよう。
コタローは魔法少女の格好をしているヒカルを抱えているつもりだろうが、他の者には小学3年生相当の美少女に抱きつく危ない高校生に見えているのだ。
「マジですか!?」
マジだ。
そして、コタローに恋する桜木あかねは暴走を――
「コタローくんの浮気者ぉぉお!」
速いな。
まだオレが言い終わる前に動き出すなんて。
ちなみに浮気者と言っているが、コタローとあかねは許婚であり、彼女は今、コタローの家に住んでいる。
コタローはそのことに反発しているが今後どうなりことやら。
まあ、それはまた別の話だがな。
「……」
少しは落ち着いたか、ヒカル?
「目に映る光景に酔った……」
何を言っている。
ここでコタローを助けるのがおまえの役目だろうが。
「それ、無理」
やれやれ。
大好きなあの人を助けるのが魔法を授かった理由だろうに。
「いやいや、そんな設定ないし。あとそれじゃあ、大好きなあの人がコタローになるだろ」
不満か?
「そういう問題じゃないだろうが」
仕方ない。
こうなったら、オレが面白、もとい、なんとかするか。
「待て。今、面白――」
「そこまでにゃ!」
オレはコタローに伸びる腕をハート型の防御魔法で防ぎ、コタローを庇うように立ちはだかった。
「私とコタローはラブラブなのだ! その行為を邪魔するお邪魔虫さんは私が倒しちゃうんだから!」
そう言って恥ずかしい魔法呪文を「恥ずかしがったら負けだよ」と言うように唱え、杖先をあかねちゃんに向けた。
「きゃあ!」
と、悲鳴をあげながらもあかねちゃんはコタローを盾にして防ぐ。
って、愛する人を盾に!?
「こ、コタローくんが身を盾にして私を……」
いや、あかねちゃんが――
「見た見た? これが愛の力なんだよぅ!」
あかねちゃんはとても嬉しそうに、ぐったりするコタローにトドメとなる抱擁をキメた。
「だ、騙されないんだから! コタローは操られているだけだもん!」
隠しきれない動揺を見せながらも、オレはさらに呪文を唱え続けた。
もう訳が分からない。
あかねちゃんはコタローを盾にし続け、オレの隙を伺っている。
だが、攻めてこない。
それは先程から見つかる隙は全てオレが作っていることを理解しているのだろう。
さすがだな。
だけど、これでは埒が明かない。
「その時だ! 正義を身に宿すヒーローが現れたのは!」
突然、ソイツはオレとあかねちゃんの間に割って現われた――
「純真無垢な白タイツ! 情熱の赤マフラー! ミラージュ仮面、美少女仲裁にただいま爆参!」
――空気を一瞬で凍らせながら。
……なんだ、コイツは。
全身白タイツを着用し、首には風になびく赤マフラー。
そして、「決まった!」と思っているのであろう登場ポーズを決めている。
とりあえず、オレとあかねちゃんの動きを止めたのだけは、すごいと言っておこう。
そして、すごい変態だと。
なんであんなにピチピチの白タイツを着ているんだろうか?
絶対サイズを間違えているぞ、アレは。
というか、暑くないのか?
まだ夏は終わりを見せていないぞ。
「いいか、美少女達よ。愛する男が同じである以上、どちらかは涙を飲まなくてはならない――」
オレが色々とツッコミたいことを届かない声で言っていると、そのミラージュ仮面とやらはオレとあかねちゃんに語り始めた。
「――だがな、それを決める方法が力でモノを言わせたやり方でいいのか? 否、それでは男を勝ち取ったとは言わない。美少女達が好きなのは、そこでボロ雑巾になっている男の肉体か? 違うであろう。確かに外見も好きになる要素の1つであることをオレ様も認めよう。だがな! 美少女達が欲しているのは、そこの男の心! 違うか! 彼が彼であるから、好きなのであろう! ならば、己が力ではなく、己が魅力で掴み取ってみせよ! いいか!」
「「はい!」」
熱い。なんて熱いヤツなんだ。
だけど、その格好はなんとかした方がいいと思うぞ、オレは。
「むっ、どうやら休み時間が終わりのようだ。各々教室に帰ること。以上!」
チャイムの音を聞いたソイツは、そう言い残して、この場から姿を消していった。
変わったヤツだったけど、この場を押さえてくれたことには感謝しよう。
さて、オレとあかねちゃんの戦いも決着がついて、あかねちゃんはコタローを引きずって屋上から去った。
で、だ。
さっきからずっと無視しているけど、いい加減オレの声に応えてくれと思うし、体の支配権を返してくれないかとも思うわけなんだが。
そう言って、オレはジブンに話しかけた。
「うむ、いいだろう。ヒカルもこれでオレが無視される寂しさも少し分ったろうしな」
ああ、わかったよ。
話しかけてもスルーされるのは、かなりツラいな。
だけどな、授業中はさすがに話せないって。
「ならば、工夫すればいいだろうに。ノートに書いて答えるとか」
……ああ、そうか。
じゃあ、次からはそうするよ。
「うむ。よろしい」
だけど――
「ん?」
――教室での出来事だけは、みんなにスルーして欲しい。
「それは難しいかもしれんな」
オレは、オレの現状を理解できる者が現われた今回の出来事を結果として嬉しく思いつつも教室での出来事をどうしたものかと思いながら、再び空を見上げた。
「青いな、空は」
Copyright (c) 2007 Signal All rights reserved.