『魔法少女カラス』

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  第2話  



 憐が通う王都学園は、魔法に関する知識や技術、武力を学ぶ魔法教育機関である。
 しかし、魔法は秘匿しなければならない。
 その為、表向きには世界有数の名門校として知られている。
 そんな王都学園の裏側。実際は表側である魔法教育機関に在籍する初等部の四年生達は今、闘技場にて、教師を審判に置き、模擬戦闘を行っていた。
「――我が身を包め、魔装カラス!」
 烏丸憐が魔装名を口にしたのと同時に、無数の黒い羽が彼女の体を包む。
 そして、それが収束すると彼女の服装は黒を基調としたトップスとフリルスカートが付いたキュロットに変わり、ロンググローブを付けた手には烏を模した杖が握られていた。
 魔装とは、自身の魔力を具現化させた武具のことだ。
 それにより、通常時に比べて身体能力の向上、魔法発動までの時間や詠唱の短縮、魔法への抵抗力増加など様々な効果がある。
 そんな魔装化を行って間も無く、杖をくるりと回転させて、杖先を対戦相手の青葉ひなたに向けた。
「かごめかごめ」
 憐は歌うように詠唱しながら、杖先でひなたの全身を囲むように六芒星を素早く描く。
「籠の中の鳥は」
 すると巨大な鳥籠が出現し、ひなたを閉じ込た。
「いついつ出やる、夜明けの晩に」
 さらに外界の情報を遮断するように黒い布が鳥籠を包む。
「後ろの正面だあれ?」
 そこで詠唱は終わり、同時に鋭い黒槍が鳥籠を貫く。鳥籠はパリンッと言う音と共に霧散して消えた。
 が、その中には誰もいない。
 そして、その後ろ。憐から見て、鳥籠より数歩後ろの場所にひなたが立っていた。
 彼女の格好は戦闘開始時の制服ではなく、淡い白色のローブ・デコルテに変わっている。
 それが彼女の魔装であり、魔装名をフクロウと言う。魔装化したひなたは、詠唱を始めて戦闘準備を整えていく。
 しかし、それを憐が黙って待っている訳も無い。
 憐は、ひなたの姿を確認して直ぐに杖を振り、魔力を圧縮した無詠唱速射型の魔力弾を連続で放った。
 けれど、当たらない。
 高速で空気を裂いて駆ける幾多の魔力弾をひなたはひらりと避ける。避け続ける。
 避けて、防いで、相手の動向を観察、分析、そして後の先を取る為に集中力を高めていく。
 それが青葉ひなたの戦闘スタイルである。
 そんな彼女にじっくりと観察され、全ての攻撃が決まらない憐は、まるで全てを見透かされている気分になっていく。
 けれど、憐は退かない。
 退かずに、より前へと踏み出し、先程までとは別の詠唱をして杖を振り、ひなたがいる方向へ広範囲の魔力散弾を放った。
 魔力散弾は爆音を響かせながら地面を抉り、土煙が闘技場を覆う。
 憐は、その中を土煙を裂きながら飛翔して魔法防壁を展開させているひなたへ突撃する。
 同時に杖へさらに魔力を供給して、杖先に巨大な刃を作り出し、杖はその形を片鎌槍に変えた。
 そして憐は、高速飛翔の勢いに乗ったまま気合一声と共に片鎌槍を振るう。
「っが!?」
 しかし、その一撃はひなたに届かない。
 憐の斬撃に合わせて放たれたひなたの一撃が憐を吹き飛ばし、
「そこまで!」
 審判を勤めていた教師の宣言により、模擬戦闘は終わった。
 模擬戦闘の終了宣言を聞いたひなたは、倒れている憐に駆け寄って手を貸す。
 憐はお礼を述べてから手を借りて立ち上がり、ひなたと共に所定の位置に戻って魔装を解いた。
「勝者、青葉ひなた。お互いに礼」
 お互いに、そして審判に礼をした二人は、次の模擬戦闘の邪魔にならないように、直ぐにその場を離れた。
「これで今学期の模擬戦は全部終了だね、憐ちゃん」
「だね。最後は勝って終わりたかったけど、ひなたちゃんに完敗だよ」
 笑みを浮かべるひなたと、がっかり肩を落とす憐は、闘技場と隣接する検討棟へ移動。
 入って直ぐの場所に設置された自動販売機で飲料水を購入してから、検討棟の一室に入った。
 部屋に入った彼女達は、各々机を挟んで椅子に座り、机の上に置かれていたリモコンを使い、部屋に設置された大型モニターを起動させる。
 そして二人は、録画された先程の模擬戦闘の映像を見ながら、検討を始めた。
「先手を取る為に速攻したけど、見事に避けられちゃっているね」
「ふっふっふっ。練習の成果なのですよ。とは言っても、ぎりぎりだったので危なかったのですけどね」
「そうなの? 私には余裕があるように見えたけど」
「余裕のある振りをしていただけなのですよ。楓ちゃんの助言を参考に練習を積んでいなければ、籠に閉じ込められた時点で私の負けだったのです」
「楓ちゃんの助言?」
 憐は一時停止のボタンを押し、視線をモニターからひなたに向ける。
「はい、楓ちゃんの助言です。憐ちゃんは、私が使用する魔法を選択してからそれを発動させるまでに掛かる時間が長いのは知っていますよね?」
「うん、知っているよ。ひなたちゃんが使う魔法は、主に強力な固有魔法だから発動までに時間が掛かるものね。だからこそ私は先手、先手、先手の速攻を仕掛けた訳だし」
「でも、そういう魔法の発動時間を短縮する方法があったりするじゃないですか」
「時間短縮する為に予め下準備をしておくとか、短縮専用に魔法式を多く組み込むとか、まあ、言うように色々在るね」
「以前、楓ちゃんと戦って負けた時の検討で、楓ちゃんからその助言をもらったのです。それを参考に取り組んでみた結果、全体的に魔法の発動時間が短縮できたのですよ。そのお陰で憐ちゃんの初手を避けられたのです」
「そうなんだ。楓ちゃんの助言は分りやすいよね。私も楓ちゃんに負けた時の検討で、魔装化についての助言を貰ったよ。お陰で色々と助かったんだよね」
「流石、楓ちゃん。模擬戦闘ランキング第一位は伊達ではないのです」
「だよね。そんな楓ちゃんに追いつけ追い越せの為にも検討を続けようか」
「はい、続けましょう」
 憐の言葉にひなたも元気に返事をし、検討再開。
 映像の巻き戻し、一時停止等を使用しながら、場面ごとに話し合いをしていく。
 途中に休憩を挟みながら続いた検討も最後の場面に辿り着いた。
 モニターの画像は、憐が、ひなたの一撃を受けた場面で止められている。
「……見事なまでに綺麗なカウンターを入れられているね、私」
「燐ちゃんの動きは、直線的なのでカウンターを入れやすいのです」
「うぐっ」
 その通りだと自覚している声が、憐の口から漏れる。
「憐ちゃんは私達の学年、いいえ、この王都学園で一、ニを争う膨大な魔力の持ち主だからこそ、変化を入れて緩急をつけたりせず、その圧倒的な魔力を気持ちの赴くままに振るい、直線的な戦い方をしてしまうのも分からなくは無いのです。実際にそれで、約二百人が在籍する初等部四年生の模擬戦闘ランキングで第三位に位置している訳ですし」
 と、模擬戦闘ランキング第二位のひなたが言う。
「でも、憐ちゃんの戦い方は強引すぎるのです。この前、楓ちゃんに負けたと言いましたよね? その時の内容を覚えていますか?」
「えっと。楓ちゃんが守って避けての繰り返しで全く攻めて来なかったんだよね。それで隙を見せたら仕留めちゃうよという感じだったので、それならそんな隙を見せる間も無く速攻で決めてみせると思って攻めたら……カウンターを受けて負けました」
「それで今回は?」
「……同じような感じです」
「憐ちゃんの戦い方は、相手の懐に飛び込める勇気が無ければ出来ない戦い方なのです。それは凄いと思うのですが、それが行き過ぎる時があるのですよ。今回やその時がそうなのです。強引で、無謀な戦い方は極力避けるべきなのですよ。まず自分が生きる事を念頭に置くのです」
「生きること?」
「はい。攻める意識だけではなく、守る意識を持つのです」
「守る意識……」
 憐は真っ直ぐに自分を見つめ、自分の為に言ってくれたひなたの言葉を声に出して、自分に意識させる。
 そして繰り返し、繰り返し、ひなたの言葉を思い返し、しっかりと自分の中にも刻んだ。
「うん、分かった。その意識を大切にするよ」
 憐の笑顔を見て、ひなたの顔にも笑みが浮かぶ。
「はい、忘れないで下さいね。では今度は逆なのです。ここまで見て私の欠点はありましたか?」
「ひなたちゃんの欠点? そうだね。時間短縮したとはいえ、まだ魔法が発動するまでの時間が長いことかな? それと――」
 それから暫く憐が感じたひなたの欠点と、その対策についての話が続く。
 そしてその後、検討を終えた二人は、検討室を綺麗に片付け、教室へと向かうのであった。
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