『魔法少女カラス』
プロローグ
境界が曖昧になるほど、空と海が暗闇に染まった時刻。
ただ、空に在る満天の星空と月だけが世界を淡く照らしている。
そんな中、二人の少女が海上を目にも止まらぬ速さで飛んでいた。
先行して飛ぶのは、月光の輝きに包まれたような純白の服を纏った少女。
その少女を追うのは、世界を染める暗闇に溶け込むような黒衣を纏った少女。
「った!」
黒衣の少女が気合一声と共に大太刀を振るい、先行する純白の少女に斬りかかる。
それを純白の少女は反転して、太刀筋から体を逸らした。
けれど、それは想定済みだったのか。黒衣の少女も体を反転させ、黒い髪を揺らしながら、純白の少女が避けた方へと更に大太刀を振るう。
が、それも届かない。純白の少女は、その一撃をひらりと避けて、黒衣の少女から距離を取った。
けれど、黒衣の少女の追撃は終わらない。
黒衣の少女は素早く幾つもの魔法陣を展開させ、そこから射撃魔法の発射体である二十五の光球を生成する。そして少女は力強い言葉を発した。
「成せ、光の槍!」
その言葉に呼応して、二十五の光球はその形を槍状に変える。
そして黒衣の少女は、赤い双眸で捉えた純白の少女を指差し、
「散開、追撃! って!」
光の槍に役目を命じ、その言葉に従った光の槍は言葉どおりに散らばり、純白の少女を追撃する。
光の槍は空気を裂くような高速飛翔で空を駆け、純白の少女を目指した。
「舞え、梟」
対して純白の少女も魔法陣を展開させ、淡い光に包まれた梟を二十五匹召喚させた。
梟は踊り遊ぶように空を舞い、その舞に釣られたかのように純白の少女へ向かっていた光の槍は吸い寄せられていく。
そして、
「爆ぜろ」
その一言で梟は光の槍を巻き込んで爆発し、辺りに爆風を生み、黒衣の少女は飲み込まれる。
けれど、その衝撃を物ともせず、黒衣の少女は弾丸のように飛び、大太刀を純白の少女へ突き出す。
それをまた純白の少女は避けたが、今度は完璧にとは行かず、その切っ先がわずかに服を切り裂いた。
純白の少女はくるくると舞いながら距離を取り、切れた服の端を見てから、黒衣の少女へ笑みを向ける。
「また腕を上げたね。戦っていて、とても楽しいよ。だから――」
「っああああ!」
話に付き合う気はない。
まるで、そう告げるように、黒衣の少女は素早く間合いを詰めて大太刀を振った。
純白の少女は、それを手にした太刀で受け止め、キィンと刃の重なる音が辺りに響く。
「成長したと思ったけれど、相変わらず、せっかちさんだね。話は最後まで聞くものだよ」
純白の少女は黒衣の少女を宥めつつ、太刀で大太刀を横へ流して、返しの一撃を放つ。
そして、その一撃を受け止めた黒衣の少女に、
「もっと私を楽しませてよ、憐ちゃん」
純白の少女は微笑みかけた。
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