『永遠の回想』

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  プロローグ  

 いつかの空。
 茜色に染まった世界で父親と息子がキャッチボール。
 息子は大きくて強く優しい父親に向かい、その大好きな気持ちを乗せ、全力でボールを放る。父親はそんな息子がとても愛らしく、その気持ちを優しく包んで放り返す。そんな2人を母親はベンチから微笑んで見守っていた。
 休日の公園。
 日も傾きかけ、見える姿はまばら。そんな中での1つの幸せ。
 久しぶりに遊んでくれる父親に向かい、息子は嬉々としてボールを投げ続けた。
「――あっ」
 父親から放られたボールは息子の手をすり抜け、後方と転がっていく。
 息子はその転々とするボールを追いかけ、追いつき、拾い、振り返り様に投げた。
 そこにいるはずの大好きな父親を目掛けて。
 ボールは綺麗な放物線を描きながら飛んでいった。息子はそれを目で追う。
 その到着点。父親の手に渡るはずのボールは、地を跳ねながら遠くへと去っていく。
「……父さん?」
 息子の目に映るのは、倒れている父親の姿。そして、駆け寄る母親の姿。
 世界はとても静かで、聞こえるのは母親の叫び声だけ。
 その声が息子を不安にさせた。
 父親と母親。2人から離れた場所に1人でいるのが怖くなって、息子は走り寄った。


 いつかの空。
 暗く、寂しく、切なく、吸い込まれそうな闇の夜。
「父さん……」
 息子は泣いていた。
 温かくって大きな父親の手。その手が帰ってくることはもうない。
 でも。
「「夜ちゃん」」
 左手を、右手を、両手を握ってくれる温かい手があった。
「アサちゃん、ハルカちゃん……」
 息子――夜は泣いた。
 2人の手が温かくって。近くで感じるアサとハルカの体温が温かくって。
 そして、心が温かくって。
 2人も同じく、その心に触れて涙を流した。


 いつかの空。
 鮮やかな青と緑の間で夜とアサたちは駆け回っていた。
 それを見守る母親と男性。
 ある日、母親は恋に落ちた。
 眼前で崩れ落ち、そのまま帰らぬヒトとなった父親を見て、母親は心が壊れかけ、時間さえも止まってしまった。
 その心を溶かしてくれた男性がいた。優しく包んでくれた男性がいた。
 それが今、母親の隣に座る男性。息子の新しい父親。


 いつかの空。
 昼なのに暗い、それは雨が降っているから。
 白い部屋。
 夜の妹となったハルカは本当の母親と同じ病で亡くなった。
 新しい父親も夜の母親もまた失ってしまった大切な命に涙を流し、崩れ落ちた。
 きっと、この時には壊れていたのかもしれない。
 新しい父親と母親の心は。


 いつかの空。
 白い世界。
 天井も壁も白い。ベッドもシーツも白い。
 光がより白を強調する。そこに白い男がいた。
 白衣を着たその男の眼にはベッドで静かに眠る赤ん坊が映る。
 男は自分の大きな手を赤ん坊の小さな手に重ねた。
 手から手へと、暖かい温もりが伝わる。
 その温もりに触れた男の頬を涙が零れ落ちる。
「――おかえり、ハルカ」
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