『球宴の夢想』

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  プロローグ  



 夢、夢の中。
 自然とそれを自覚し、どことも分からぬその場所に1人佇んでいた。
 辺りには何もなく、また何も聞こえず。思考する頭は霞がかったように朧。
「ようこそ、夢世界へ」
 そんな意識を動かす少女の声が1つ、耳に届いた。泳いでいた視線が恭しく一礼している少女を捉え、「ああ、君か」と現れた少女に挨拶を返した。
「今宵、どのような夢をご所望ですか?」
 ポニーテールを揺らし、笑顔で尋ねる少女の質問にしばらく考え、その答えを口にした。
「うんうん、なるほど。承ったのですぅ。それでは良い夢を」
 それは間を置かず返され、すぐに戻ってきた。
 そして少女はまたも一礼して世界と同化するように消えていき、合わせて世界も姿を変えていく。
 夢見る者が望む姿――ドーム球場へ。
 そして、耳に多くの声、声、声。その声たちに頭を揺らされ、気がつくと夢見る者は他の観客と同様に席の前に立っていた。
 皆が向く、そのドームグラウンドの中心。試合前に行われる対戦する両国の国歌を歌姫――セレナの歌につられて、皆が口ずさんでいる。
 その歌声からは試合をする両国へ「頑張って!」の強い気持ちが感じられた。
 だからこそ、同じ想いを抱く観客も一緒にその想いを込めて歌うのだろう。
 両国の国歌を歌い終わったセレナはグラウンドから実況席へと向かい、その間にグラウンドではゲストに呼ばれた白河ゆかりの始球式が行われた。
 ゆかりは王都学園のユニフォームに身を包み、大きく振りかぶって力一杯ボールを投げた。
 何バウンドもして、キャッチャーミットに届いたその球をグレイが空振りして、ゆかりは「大したことないわね!」と嬉々としてマウンドを降りていったのだった。


『皆さん、こんばんは! フォルスヴァールズ対王都学園のドリームマッチへようこそ!』
 会場となるドームに広がるその声に会場が沸く。これから始まる熱い戦いに希望を乗せて。
『実況は私、セレナ。解説はロウワードさんです。ロウワードさん、よろしくお願い致します』
『よろしく』
『ゲストは王都から先ほど始球式をした白河ゆかりちゃん、フォルスヴァールからはイヴェット・ルーエルグさんです! よろしくお願い致します!』
「イヴ様!」「イヴさまー!」「イヴちゃぁん!」「イヴさーん!」「ゆ、ゆかりたーん!」「ルーエルグ家万歳!」「イヴさまぁ!」「イヴ!」
『よろしく! で! なんでイヴさんへの声援ばっかりなのよ! っていうか、誰「ゆかりたん」とか言った奴は!』
『よろしくお願い致します』
『次に審判4人の紹介です。主審にニーヘルトスさん、一塁審に織田加奈ちゃん、二塁審にトラニス村村長、三塁審判に滝沢亜美ちゃんです』
『亜美、加奈頑張ってねぇ!』
『試合方式は延長無しの9イニングで指名打者制はありません。さあ、試合もいよいよ開始! 果たして、どのような熱い戦いが行われるのでしょうか!』


 夢、夢の中。
 これから始まるのは夢見る者が望んだ1つの物語。 
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