『彼と僕』
出会い
僕は自転車に乗って桜並木道を通り、学園に向かっている。
今日は中等部の入学式。
見頃もあとわずかであろう桜を見上げ、少し前方不注意になりながらも進んでいく。
そんな桜並木の交差点。
示し合わせたように突然空から人影が現れた。
「うおっ!?」
「っと!」
急ブレーキをかけて緊急停車。
衝撃はなく、現れた人にはなんとかぶつからずにすんだようだ。
でも。
「あっぶなかったー。君は大丈夫?」
「大丈夫。君が止まってくれたから『秘技・車輪止め!』を出さずにすんだよ」
彼は真剣白羽取りをするように構えてみせて、笑って答えた。
その笑顔につられて僕も笑んだ。
「で、君はなんで空から降ってきたの?」
突然空から現れた彼に僕はごく自然な疑問をぶつけてみる。
「ほれ」
その答えはなんとも可愛らしかった。
「子猫?」
両手に抱えられた子猫を見せて彼は言う。
「桜を眺めながら歩いていたらさ、この猫が木から降りられなくなっているのを見つけて、降ろしてあげねばと思った俺は木に登ったのさ。で、抱えたら両手が塞がったんで飛び降りた」
なるほど。そういうことなんだ。
「でも、ちゃんと辺りを確認しないと危ないよ」
自分も前方不注意だったことを棚上げして彼に言う。
「ごめん、反省。次からは気をつけるよ」
また子猫を助けに木に登って飛び降りることがあるかは別にして反省しているようだ。
「ところで、君も1年生?」
彼が着ているのは今日から通う中等部の制服。真新しい感じからして同じ1年生と予想。
「うん、1年生。君も?」
「そう」
「もしかしたら同じクラスになるかもな。よろしく」
そう言って彼は子猫の右手を持ち上げ、僕へと伸ばす。
「よろしく」
そんな彼が面白くって微笑。
僕は子猫を通じて彼と握手した。
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