「彼と僕」

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  秘めたる想い  

「なんで自分のことを『僕』って呼ぶの?」
 前の席になった彼はそう僕に尋ねてきた。
「じゃあ、君はなんで自分のことを『俺』って呼ぶの?」
「えっ? ……なんでだろう?」
 まさか自分に質問が返ってくるとは思わなかったみたいだね。
 彼は自分がなぜ『俺』と呼ぶのかを考えている。
「……」
 でも、どうやら思いつかないらしい。
「なら、僕が『僕』と呼んでもおかしくないでしょ」
「まあ、そうか。そうだね、うん」
 彼は納得したのか、その話を終えて、他の話を始める。
 僕が最初に『僕』と呼んだのは幼稚園児の時のこと。
 ある日、僕は好きな男の子に告白した。
 でも、その男の子は別の男の子が好きだと言ったんだ。
 その時、僕は何を思ったのか、長かった髪の毛を切ってもらい、スカートではなく、ハーフパンツを穿き、『私』ではなく『僕』と呼ぶようにした。
 きっとそうすればその男の子も僕のことが好きになるとでも思ったに違いない。
 ただ、その男の子と僕の言った『好き』には違いがあったのだと今は分かる。
 それが最初に自分を『僕』と呼んだ時だ。
 そして、今も僕が『僕』と呼ぶのは同化のため。
 僕は野球をしたり、サッカーしたりと、スポーツをするのが好きだ。
 だから、女の子たちと遊ぶより男の子たちと遊ぶことが多かった。
 でも、そこで違和感。
 いつ頃からか、男の子たちの接する態度に変化が起こり始めた。
 それは異性への意識。
 それが僕をみんなから浮遊させた。
 だから少しでもその距離を埋めようと『私』は『僕』となった。
 でも、だからって自分が女の子であることを嫌いになったわけじゃない。
 だから、決めているんだ。
 次に恋をした時、『僕』は『私』になると。
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