「彼と僕」

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  星  

「どこに行くの?」
 友達の家からの帰り道。
 前から自転車に乗って現れた彼に尋ねる。
 すると、彼は笑って言う。
「星をつかまえに」
 ……ん?


「うーん、あまり見えないね」
 現在地、土手。
 土手沿いの車道に灯があるだけで、川のそばまで来ると辺りは真っ暗。
 足元が心許無い。
 それにしても、見える星の数はわずか片手程度。
 都会ではこんなものかと、久々に見上げた空を見て僕は言った。
「でも、見えないところにも星はあるんだよ」
 彼は手に持った何かを構えて言う。
 カシャ。
 暗い中、突然の光が眩しくって目を瞑る。今の音からしてカメラだなと、手にある暗くって見えづらいカメラを見て思う。
「星をつかまえるって写真に撮ることだったの?」
「そう。一旦この中に来てもらって写真の世界へと移ってもらう」
 彼はカメラを触りながら言う。
 写真の世界、か。
 こちら側から見える範囲は狭いけど、中はどんな風になっているんだろう?
 今まで写真に写ってきた僕は窮屈な暮らしをしていないだろうか。
 彼と共に夜空にいる星を見ながらそんなことを思った。


「さて、帰ろうか」
 彼と並んで、自転車を押しながら土手を歩く。
 道は暗く、先が見えない。
 そこに抱く不安を消すように僕は声だけの彼と話す。
「昔は夜、星を道標にして歩いていたんだってさ」
 彼の顔は暗くってよく見えない。
 だけど今、僕と同じく空を見上げながら歩いているのが分かる。
「でも、これじゃあ道標にならないね」
 僕自身が発した言葉なのになんだかその言葉で寂しくなった。
「でも、なんで星を撮りに来たの?」
 その寂しさを紛らわせるために彼へと質問。
「うーん、そうだな。自己主張する彼らを撮ろうっと思って」
「自己主張?」
 紛らわすために聞いた質問に予想外の答えが返ってきて、僕は首を傾げた。
 まあ、予想なんてしてないけど。
「数多くある星もここだとわずかしか見えない。でも、僕らは確かにここにいるんだと彼らは言っている気がして。だから、そんな彼らの証拠写真を撮りにきたんだ」
 笑顔で言う彼を見て、私もつい笑む。
 と言っても、暗いので彼が実際に笑ったかは分からないけど、きっと笑顔。
 うん、そうに違いない。
 僕たちはそこにいる、でも見えない満天の星空の下、家路を辿った。
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