『球宴の夢想』

次に進む | 前に戻る | 目次に戻る

  第4話  



 4回表を迎えた頃。
 王都学園応援席にアサが遅れて到着し、「お待たせ、夜くん」と夜の隣に座った。
 到着した際、ちらっと見たスコアボードを再度確認。
 3回を終えて、王都学園が1点リード。
 現在4回表でフォルスヴァールズの攻撃中。先頭打者のセラに内角高目のストレートをセンター前に運ばれて、ノーアウト1塁の場面。試合の行方を見守りながら、アサは夜に現在までの流れを聞いていた。
 その間も試合は進んでいき、次のバッターであるニナを三球三振としてワンナウト1塁。
 そんなトワの奪三振に合わせて、応援席からトワへ拍手が送られた。
「わ、わ、すごいね! 奪三振だって! トワちゃん、頑張れ!」
 すでにテンションが上がっているアサを尻目に夜は次の打者を待つトワを見据える。周りが奪三振したことに拍手を送っている中、同じく拍手を送っているものの周りとは温度差があった。冷静に1人、今までの展開を思い出して4回表ワンナウト1塁までの投球内容を頭の中で1球目から辿っていく。
 ニナを三振にした段階での投球数は41球。
 内訳がストレート11球、シンカー7球、ナックルカーブ9球、高速スライダー14球である。
 また現在までに許した安打数が5本。うち1本は今さっき、セラが打った安打だ。三回までに許した安打数は4本。それに対して許した点数が4点。
 対するセレスは3回終了時点での投球数は59球。
 内訳がストレート26球、高速スライダー16球、SFF17球である。
 また現在までに許した安打数が9本。それに対して許した点数が5点。
 王都学園の点の取り方はツーランホームラン1本と連続安打での5点。
 フォルスヴァールズの点の取り方はツーランホームラン2本での4点。
 安打を量産して点数を取る繋ぐ打線と変化球投手トワ。
 1発のある長打者をずらりと並べた強力打線と速球投手セレス。まさに正反対のチーム同士の対決となったわけだ。
(……だけど)
「ットライク! バッターアウト!」
 夜の思考を中断させる拍手が周りで起こる。トワが続くエド、レイルを連続空振り三振としたのだった。
『三振、三振、三振! トワ、先頭打者のセラにヒットを許すものの、後続の追撃を許さず! なんと3人! 三者連続奪三振達成! 応援席からは拍手と歓声の雨が降り注いでいます!』 
「ナイピー!」
 と、出迎えてくれた佳奈にグラブと帽子を渡して、代わりにバットとメットを受け取ってトワは打席へと向かっていく。
 それを目で追っていたレスターに後ろから声が掛かった。
「明らかに待っていたね」
 自分の心中とタイミングを同じくして掛けられた声に振り返ると、監督――草薙総一郎が「静かに」と手招きしていた。レスターは横に座り、監督の言葉に耳を傾ける。
「近くで見ていたレスターくんにはわかっていただろうが、セラ選手以降の3人は待っていたな」
「はい。3人とも追い込まれるまで手を出してきませんでした。向こうの指揮官、カレルさんが待球の指示を出していたと考えられます」
「私も同意見だ。ベンチに戻った彼らはカレルくんと何やら話していたからな。それで神崎さんの調子はどうだい?」
「調子は……良すぎます。初回から感じていたのですが、変に意識させると調子を崩すと思って黙っていました」
「確かにそうだな。それは私も感じていた。初回から飛ばしているように。しかし、そうでもしないと4点ではすまなかっただろうからな。あの人たちが相手では。で……レスターくんから見て、あとどれくらいだと思う?」
「……次です」
『打ったー! コタロー、外角高目の高速スライダーを見事捉えてのツーベースヒット! 王都、スコアリングポジションにランナーを出しました!』
 しかし、藤堂は内角高目のSFFをサードゴロにしたため、コタローは走ることが出来ず、2塁に留まったまま。続いて登場したレスターは応援席の期待に応えるようにライト前ヒットを打つ。
 けれど、コタローはホームを踏むことは出来なかった。コタローが三塁を踏んでホームを目指そうとした時にはすでにカレルの手にボールがあったからだ。両チームの応援席からその脅威の返球に驚嘆の声が起こる。
 だが、その当事者であるライト――セラは何事もなかったような涼しい顔で定位置に立っていた。
 そして迎えた4番織田。その背に期待の声援を送るも織田は応えることが出来ず、ど真ん中のストレートを詰まらせ、セカンドゴロとした。
『リタ、ボテボテのゴロを捌いてファーストへ! アウト! これでスリーアウトチェンジ。1、3塁残塁。王都学園チャンスを生かせず、無得点に終わりました!』
「惜しかったね、夜くん」
「ん? ああっ、そうだね。確かにアサの言う通りだ。ここで点を取れなかったのは痛いな」
 夜と同じく、ベンチへと下がっていくレスターもそう思っていた。
(これは痛い。少なくともここで1点取っておきたかった。正直、シンさんの調子はイマイチだ。トワと交代した後、大量得点を覚悟しなくてはならない。だからこそ、リードをここで広めておきたかったんだけど……)
 だが終わってしまったことをとやかく言っても仕方がない。レスターは考えを切り替え、次の回での戦略を練っていくことにした。
次に進む | 前に戻る | 目次に戻る | 掲示板へ | web拍手を送る
Copyright (c) 2007 Signal All rights reserved.
  inserted by FC2 system