『思緋の色』

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  第2話 「学園での闘い・b」  

「ふっふっふっ、ついにオレ様とお前だけになったな、コタローよ」
 今、教室内で立っているのは僕とタッキーだけだ。
 男子一同は床に倒れ、女子一同(シンさん含む)は廊下から観戦している。
「タッキー、降参してくれ。僕はこれ以上無駄な戦いはしたくない」
 それを聞いてタッキーはヒキガエルのように声を上げて笑った。ちょっと気持ち悪い。
「笑止。ここまで来て闘いをやめるだと? それでは今まで倒れていった同志が報われん」
 タッキーは右手を天にかざし、
「タッキィィィィィワァァァァァルド!」
 タッキーの叫び声とともに教室が灰色の世界と化した。タッキーワールドはタッキーのギフトだ。ギフトとは世界大異変以降姿を現した特定の人だけが持つ特異能力やそれまであったとされる異能の力を含めた総称で所有者はギフトホルダーと呼ばれている。タッキーはその中でも上位に位置するギフトホルダー。その能力は結界と呼んでもいい。ここは僕たちのいた世界とは隔絶された空間。基本的に物理的手段では出入りが出来ない。この教室はそんなタッキーワールドの支配下におかれた。外で見ていたシンさんたちの姿が見えなくなっている。別空間にいるのだからまあしょうがない。にしても、
「まさかタッキーワールドまで使うなんて。タッキーこんなことにギフトを使うなよ!」
「すまん、コタロー。だがもう後には引けんのだよ。さあ、我が力を受けてみよ!」
 だめだ、目がやばい。どうしよう、この空間内じゃタッキーのほうが有利だよ。なんとかならないかな?
「召喚! 魔法少女アリス!」
 そう思っているうちにタッキーは魔法少女アリスを召喚した。魔法少女アリスは現在JHKで放送中の人気アニメ「魔法少女アリス」の主人公の女の子。現在原作は第16巻まで発売中。今夏に映画第2弾も決定している。この空間ではタッキーのイメージが実現化するんだ。普段もたまにこの空間で楽しんでいると聞く。
 一体どんなことをしているんだろう? まあだいたい予想のつくのが悲しくもあるんだが。
「いけ、アリスちゃん! あの憎き敵を打つんだ!」
「はい!」
 可愛く返事をしたまだ汚れを知らない純真無垢なアリスちゃんは呪文の詠唱に入った。って、状況確認している場合じゃない!
 その間1秒未満。僕はとっさにアリスちゃんとの間合いを詰め、
「ほえ?」
 アリスちゃんは何が起こったかわからないうちに意識を失い、消滅した。
 というか失わせたのは僕なんだけど。
「き、貴様! アリスちゃんに手を上げるとは何のつもりだ!」
 怒り狂うタッキー。
「何のつもりだ、じゃないだろ! あのままじゃあ僕死んでるよ!」
「そんなこと構うものか! アリスちゃんは呪文の詠唱中だっただろが! 普通待つだろ、あの場面は! 貴様は何も分かちゃいないな!」
「ああっもうバカ! タッキーは馬鹿だろ? そんなお約束みたいなことに待てないよ! 待っていたら僕死んじゃうじゃないか!」
「そこは黙って死んどけ! オレ様はアリスちゃんの可憐でキュートな姿が見たかったのだよ! お前イメージ具現化するのがどれだけ力使うと思っているのだよ、すごく疲れるのだぞ! アリスちゃん具現化してまだ1分、いや、30秒も経ってないっていうのに!」
 タッキーは泣きながら訴えかける。そんな泣くほどのことなのかな?
「もう許さん! 許さんぞ!」
 タッキーがそう叫ぶと僕の手足の自由が奪われた。いつの間にか十字の磔台が出現し、僕はそれに磔にされた状態になっている。
「くっくっくっ、動けまい。もうおしまいにしてやる」
 タッキーの目が血走っている。まずいな、本当に僕を殺す気だ。一歩、また一歩とトドメのカウントダウンをしているように詰め寄ってくるタッキー。顔が放送禁止状態になっているよ。
 怖い、本当にありえない顔だよ。どうしよう?
「これで貴様もおしまいだぁぁあぁああああ!」
 タッキーの手に大刀が具現化し、大きく振り上げたその時、
「だめぇ!」
 どこからか出現した小さな影にタッキーは吹っ飛ばされ、そのショックでタッキーワールドは崩れ去り、元の空間に戻っていた。
「あかねちゃん!」
 タッキーを吹っ飛ばした小さな影。それはあかねちゃんだった。
「大丈夫、コタローくん?」
 倒れている僕にあかねちゃんはその可愛らしい小さな手を差し伸べてくれた。
「ありがとう、あかねちゃん。でも、どうやってタッキーワールドを打ち破って入ってきたの? 外からじゃこっちの様子は見えないのに?」
「それはね、私とコタローくんをつなぐ愛が奇跡を呼んだんだよ!」
「愛? 奇跡? マジですか? それでタッキーワールド崩壊ですか?」
 ありえるのか、いやありえないだろうと思っていると、
「ふっ、君たちの愛に完敗したよ」
 タッキーはあっさり肯定した。
「ええっ、納得するの!?」
 顔の半分を大きく腫らしながらタッキーは僕たちに詰め寄ってくる。
 だけど、いつもと変わらない顔に見えるのはなぜだろう?
「オレ様の名前は滝沢秀吉だ。タッキーと呼んでくれ」
 満面の笑みで挨拶するタッキー。
「私は桜木あかねだよ。よろしくね」
 満面の笑みには満面の笑みで返すあかねちゃん。
 こうも満面の笑みに差があるのはなぜだろう?
「よろしく!」
 と、いつの間にか復活している男子一同。
「よろしくねぇ!」
 と、いつの間にか教室に入ってきている女子一同。
 そして皆であかねちゃんを囲んだ状態になり、僕はそんな皆に弾き出され蚊帳の外だよ。
 囲まれたあかねちゃんは外部から来たということもあり、質問責めにあっていた。

『あかねちゃんとクラスメイトの会話(一部抜粋)』
「あかねちゃんってどこに住んでるの?」
「コタローくんの家だよ」
 嬉し恥ずかしそうに応えるあかねちゃん。
「何、やっぱりかぁ!」
 男子一同の鋭い視線が僕へと突き刺ささる。
「ええっ、コタローくんの家に一緒に住んでるの? なんで、どういうこと?」
「どういうことなの?」
「コタローくんとどういう仲なの?」
 女子一同はあかねちゃんに興味津々の様子で聞いている。
「私とコタローくんはね、許婚で小さい時に将来を誓い合った仲なんだよ」
 あかねちゃんは恥ずかしそうに頬を染めて、手をもじもじさせながら言った。
「ええっ!」
 クラスメイト一同の揃った声が教室に響いた。
 が。
「まあ、コタローだし」
「コタロー君だしね」
 と、すぐに納得されていくのはどうだろうか?
以上『あかねちゃんとクラスメイトの会話(一部抜粋)』

「ちょっと、あかねちゃん!」
 僕はあかねちゃんを手招きで呼んだ。
「ん? なに、コタローくん?」
 とことことあかねちゃんがやってくる。
「さっき余計なことは言わないでねってお願いしたよね?」
 今さらだけど小声で確認。
「うん、お願いされたよ?」
 あかねちゃんはなんでまたそんな確認をするのといった顔で首を傾げている。
「じゃあ、何で許婚のことなんて言うの?」
「だって、それは余計なことじゃないもん。だから言ったんだよ? 本当はコタローくんも嬉しいくせにぃ」
 あかねちゃんは頬染め笑顔で僕を肘でつっついてくる。
「おい、コタロー……」
 男子一同が僕を四方八方から囲いながらだんだんと詰め寄ってきた。
「な、何?」
「「どっせい!」」
「ぎゃぁあああああああ!」
 結局、クラスであかねちゃんは僕の許婚と認識されたのだった。
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