『思緋の色2』
第1話 「学園での闘い、再び」
はぁ、昨日から父さんたちの勢いに押されているばかりだな。
学園への通学中。僕は昨日から今現在までを振り返りながら歩いた。
あかねちゃんが来て、桔梗さんが来て……また明日になったら新しい人が来たりするのかな?
まあそれにしてもだ。出会ってから桔梗さんが時折、僕に向けているモノがある。
それは敵意だ。というか、殺意。なぜか桔梗さんからは僕への殺意を感じる。
僕は後ろを振り返り、未だに見送っている桔梗さんを見て思う。
桔梗さん、すごい美人だな。……くるぜ。
「コタローくんのバカぁ!」
「ふべし!?」
まさに心を読まれたんじゃないかと疑ってしまうほどのナイスタイミングで僕は壁へとめり込んだ。このままいけば、僕の特技に壁にめり込むことが追加されるんじゃないかというほどのナイスめり込り具合。
いらない特技だな。
「で? なぜに僕は壁にめり込まされたんですかね、あかねちゃん」
「今、コタローくんが桔梗さんに色目を使ってたからだもん!」
ぷんすか、と実際に声へ出して頬を膨らませるあかねちゃん。
ぷんすかって、あかねちゃん……。
そんなあかねちゃんに僕は言う。
「いやいや、使ってないよ! というか、この距離で色目って! もう家から大分離れてるよ!」
「愛に距離なんか関係ないもん! 遠距離恋愛してる恋人同士だっているもん!」
「それは違うでしょうが!」
「コタローくんのすっとこどっこい!」
「僕への不満と攻撃はセット販売なのか!」
あかねちゃんが繰り出す一撃必殺の連続技を避けつつ、僕たちはそのまま学園へと向かった。
「おはよう」
学園へと着いたのを区切りに僕たちの攻防は終わりを迎え、今は普通に話しながら教室へと辿りついた。
その教室内。教卓の周りにはシンさんを除いた男子一同が集まっている。その中心にはタッキーがいた。そして、何やら熱弁している。
「いいか! オレ様は上手い言葉で伝えるつもりはない! そこから先は貴様らの想像力に掛かっている! 己の想像力を極限まで高めてついて来い! ついて来れないヤツは想像の海に溺死しろ!」
「「了解!」」
なんだ、このノリは……?
意味が分からないのですが。というか、昨日と同じパターンですか?
タッキーの言葉でシンさんを除く男子一同が目を瞑り、己が想像の海へと航海を始めた模様。皆を目的地へと導くためにタッキーは先導役として言葉を発していく。席に戻って、授業の用意をしていた僕の耳にすら届く声で。
聞こえてきた一部をまとめると、肩にかかる長さの綺麗な黒髪に可愛い猫目ですらりとした長身。
でも着やせしていて、他が細いから相対的になんとかかんとか。
それを聞いて僕はある人が頭に浮かんだ。
「そしてその見目美しい女性――望月桔梗さんは本日よりコタロー宅に住むこととなった!」
ああっ、やっぱり。
「って、待て! なんで今日うちに来たばかりの桔梗さんをタッキーが知ってるんだ!」
だけどタッキーは僕の言葉に答えることなく、続けて話す。
前回もそうだけど、タッキーは一体どこから見ているんだ?
「いいか、コタロー宅にだ! 今なお想像の海を行く貴様らなら見えるであろう、その羨ましい光景の数々が!」
「くそっ、コタローの分際で!」
「なんて羨ましい……!」
「あかねちゃんと桔梗さんと……かはっ!」
「おい、しっかりしろ! レスキュー、レスキューはまだか! 想像の海に溺れた隊員が出た! 至急救援を!」
連なる言葉。悶々と広がる妄想が僕への殺意を増大させて教室を支配していく。
そして。
「皆、オレ様の声が聞こえるか! 裁判の判決を下す! コタロー被告を主文の通り、死刑とする! 異議がある者はいるか!」
「「異議なし!」」
はい、やはり昨日のような流れになりましたとさ。
「異議あり! 主文言ってないだろうが! それになんでまた昨日に続いて今日も死刑宣告を受けないといけないんだ! 理由を求める!」
そんな抗議の声をタッキーは鼻で笑って一蹴した。
「理由だと? 可愛い女の子と綺麗なお姉さんと一つ屋根の下に住む……。それだけで十分だ!」
「不十分だよ! まずは僕の話を聞け!」
だけど、そんな僕の声を打ち消すようにタッキーの声が木霊する。
「タッキィィィィィワァァァァァルド!」
その言葉により、タッキーのギフトは発動して世界は別離した。
僕と僕に敵対するシンさんを除く男子一同を残して。
そして世界構築完了後。
タッキーは視線を僕にぶつけ、薄ら笑いと共に僕へと言葉を投げてくる。
なんて邪悪な笑顔なんだ。
「いいか、コタロー。我々は貴様と話し合いをしたいのではない」
あっ、僕の話聞いていたんだな。
「立てよ諸君、憎悪を力に変えて! 我らが敵、草薙小太郎の首を手中に! ヤツを十万億土へ送ってやれ!」
タッキーの攻撃合図を聞いた彼らは僕へと襲い掛かってきた。
ああっもう! 昨日と同じなのか!
このままではまずいと思った僕は力を使う。攻めて来る彼らに対し、眼力を飛ばして身構えた。眼にやられたのは数人。あとはタッキーの洗脳効果が強いのか、彼らは僕の眼に臆することなく、突撃してくる。
第一陣は上、左、右からの三方向からの攻撃。普段からは考えられないような速さだ。これもタッキーワールドの影響下ということなのかな。
でも僕はそれをバックステップ一つで交わして、踏み込んで止まったところへ回し蹴りで3人を強引に蹴り捨てた。蹴り飛ばされた3人は音を立てて、机の海に沈んでいく。
次いで第二陣。正面に構えを戻すと、すでに晴れた視界の中に突撃してくる敵1人。その敵を仕留める為に、深く構えて敵を討ちに飛び込む。
「来たぞ!」
そのタイミングで眼前の敵が声を張ると、その敵の肩を踏み台にして他の敵が飛び蹴りを放って現われた。けれど、僕は引かずにその足を掴んで突撃してくる眼前の敵へと投げつけて2人をまた吹き飛ばす。
その後も、そんな感じで攻めてくる敵を倒していき、
「ふっ、結局オレ様とコタローの2人になったか」
昨日の闘いの再現を辿っていた。唯一違うのがすでにタッキーワールドの中にいることぐらいだ。
何せ、昨日はタッキーワールド発動前に闘ったせいで教室内が大変なことになって散々怒られたからな。タッキーもさすがに反省して事前にタッキーワールドを展開したんだろう。というか、反省しているなら戦うことさえやめればいいのに。
「貴様は良い親友だったが、貴様の待遇が許せんのだよ。呪うがいい、己が宿命を! 屍の上に成り立った我らの戦いはって、アレ?」
僕はタッキーの言葉に付き合う気などさらさらなかった。
素早く背後を取ってタッキーの腰に腕を回し、前で固く手を結んで――
「いやいや、待てコタロー。こういうのはオレ様の台詞をだな」
「聞く気は、ない!」
――反り投げ、タッキーの後頭部を床へと叩きつけた。
「どぅるぶわ!?」
……決まったな。
僕は立ち上がり、首より上を埋没させて足を広げているタッキーに言った。
「闘いとは呆気ない幕切れをするものだな、タッキー」
世界を構築していたタッキーの気絶により世界は崩壊した。
そして、元の世界へと帰還。
やれやれと肩を落としていると、シンさんが登校してきた。
「おはよう、コタロー」
「あっ、おはよう」
朝の挨拶を交わした時、ちょうどチャイムが鳴った。
さっ、今日も1日頑張るか。
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